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「いのちと尊厳が大切にされる社会の実現を」
二度と再びこのような大惨事を引き起こさないために

 先月26日未明に発生した神奈川県相模原市の障害者施設入所者殺害事件は、国内はもとより海外にも大きな衝撃を与えました。障害者の人権と発達、尊厳が守られる社会の実現をめざして取り組みをすすめている私たちにとって、同じ福祉の現場で働くなかまによる卑劣極まりない行為に対し、断じて許すことはできません。抵抗することもできず無念の死にいたった19名の利用者の方々のご冥福をお祈りするとともに、残されたご家族の皆様に心よりお悔やみを申し上げます。

  殺傷後警察に出頭した元施設職員の容疑者が今回の凶行の理由に上げている、「障害者を殺すことは不幸を最大まで抑えることができます」、「(施設利用者は)安楽死させるべきだ」などといった内容は、いずれも時代錯誤と偏見に満ちたものであり、正当化されるものではありません。しかし、こうした意識がとりわけ2000年以降政府の福祉政策の変更、削減の中で助長され、拡散されてきたことを指摘せざるをえません。戦後日本は、新憲法のもと障害者も含め国民誰もが健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有すると謳い、国・自治体がその責務を負うことを規定しました。しかし、政府は憲法の規定を実質変更し、福祉に自己責任を持ち込むとともに、社会保障予算の増加が財政悪化をもたらしていると宣伝し、社会保障の給付やサービスを利用している高齢者や障害者、生活保護受給者を「社会のお荷物」と描き出し、利用者負担の引上げ、利用抑制を推し進めてきました。その結果、格差と貧困が拡大し、一層厳しい目が社会的弱者にむけられるという事態を引き起こしています。また、福祉の現場にも制度の変更と運営費の削減の中で公立の福祉施設や保育所が民間に移管されたり、職員の非正規化が容認されたり、非正規・低賃金構造が政府の手によって作り出されました。事件が起きた施設も、県の直営だったのが2005年に民間委託され、職員の賃金・労働条件が引き下げられたと報道されています。いま福祉現場に運営費の引き下げによる賃金・労働条件の悪化が広がっています。そしてそれが人材難に拍車をかけ、現場に過酷な労働環境が押し付けられる悪循環を生んでいます。労働環境の悪化は、利用者と利用者の生活と権利を守る職員との間に対立を醸成する事態まで生んでいます。また、職員不足が支援の質の低下を招き、利用者の生活の悪化と支援に対する職員の意欲の後退を生んでいます。

 人類は、1948年に多くの尊いいのちと人権を奪った大戦の痛苦の反省から、二度と戦争を起こしてはならない、その為には差別を撤廃し、人権を確立することが恒久平和に通じるとの誓いのもと世界人権宣言を採択しました。そしてその中で「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と謳い、全世界すべての人々の人権を守ることを公的に明らかにしました。同様に日本においても戦争の惨禍の反省に立って、不戦の誓いと基本的人権保障を謳った新憲法を制定しました。私たちは改めて憲法で保障された人権と民主主義の理念に基づき、一人ひとりの国民が主権者として自立した生活が実現できる社会保障制度の充実とその担い手である福祉職員の安定した地位と労働条件の向上を、改めて国・自治体に求めます。